第1章 SATELLITE とは

1. システム解析支援環境 : SATELLITE

脳・神経系に代表される未知システムを対象とする解析支援環境には,解析機能として通常のシステム解析手法はもちろん,解析を通じて生じた新しいアプローチの導入に即座に対応するシステム使用の設計が必要です.また,試行錯誤的処理手法の模索が中心となる研究であり,プログラミングをはじめ,データフォーマット変換といった付随的作業をなくし,研究者の試行を中断させない親和的なマン・マシン・インタフェースを備えていなければなりません.

こうした思想をもとに開発されたのが,システム解析支援環境 : SATELLITE (System Analysis Total Environment for Laboratory - Language and InTeractive Execution) です.

SATELLITE は,会話環境および C 言語に似た言語体系 (SATELLITE 言語) を提供するシェルを中心に,信号処理やシミュレーションなど計 248 種類に及ぶ解析コマンドを機能別にまとめたシステム・モジュールによって構成されます.

SATELLITE 言語処理系の概要

図 1.1. SATELLITE 言語処理系の概要

ユーザは,シェルが提供する対話環境から,組み込み関数,およびシステムモジュールの任意の関数を組み合わせて,解析・シミュレーションを進めることができます.

2. システム・モジュール

系統的手法の存在しない未知システムの解析では,多方面に亙る知見を試行錯誤的に適用し,新しい理論・概念を導いていかねばなりません.そこには,基本となる信号処理理論をはじめ,シミュレーション技術,パラメータ推定法など,様々な解析アルゴリズムをデータベースとして備え,研究者の試行を中断させずに新しい方法論を容易かつ迅速に導入・評価するための柔軟な支援環境が必要です.

こうしたことから,SATELLITE では,解析の対象や手法によって機能をシステム・モジュールとして分類し,解析アルゴリズムの体系化を図っています.システム・モジュールとしては,システム解析の基本となるディジタル信号処理をはじめ,シミュレーションやパラメータ推定法などがあります.

2.1. システム関連モジュール : SYSTEM

SYSTEM は,データの切り出し,データの連結,データ形式の変更など,様々なデータの編集機能を中心に,データバッファのモニタリングコマンド,データの最大,最小値を求める関数,データバッファのヘッダ情報を調べる関数などを集めたモジュールです.

2.2. ディジタル信号処理パッケージ : ISPP

ISPP (Interactive Signal Processing Package) は,SATELLITE のシステムモジュールの中核をなすものです.このモジュールには,データ補間,ウィンドウ等の前処理や,FFT,線形予測によるスペクトル推定,フィルタリング,ケプストラム解析等,ディジタル信号処理の方法論を網羅する処理機能が関数として実装されています.こうした様々な関数は,全て複数のデータ格納領域 (バッファ) またはデータファイルを対象として処理を実行することができ,関数を組み合わせて処理を記述することによって,計測されたデータの信号処理,統計処理をはじめ多角的なデータ解析を行うことができます.

2.3. グラフィックシステム : GPM

処理結果の検討時に,データを単なる数値の羅列として出力したのでは,その特性を対極的に把握することは困難です.GPM (Graphic Package Module) はグラフィック機能として通常のグラフ表示はもちろん,データの重ね書き,等高線表示,3 次元表示,カラーマップ表示などを提供しています.また,グラフィック機能はデバイスに依存しない構成となっているため,画面イメージと同一な印刷情報を出力することができます.

2.4. バックプロバゲーション・シミュレータ : BPS

BPS (Back Propagation Simulator) は,誤差逆伝搬 (BP) 学習アルゴリズムを用いたニューラルネットワークシミュレータです.コマンドによりネットワーク構造や内部状態の設定, データファイルの管理などの各種条件が指定可能で,大規模なニューラルネットのシミュレーションが容易に行なえます.また,複数の重み初期値設定アルゴリズムや学習アルゴリズムを搭載し,各種アルゴリズムの評価,開発を支援すると共に,学習過程のグラフィックトレース機能などにより,学習の進行状況を瞬時に把握できる環境を提供しています.その結果,学習によって得られた内部表現の解析,学習状態や汎化の過程,あるいは,ローカルミニマムの問題など複数の学習試行に対する統計的処理結果から多角的に解析でき,計算論的神経科学の要請に基づいた解析環境を実現しています.

2.5. 神経回路シミュレータ : NCS

NCS (Neural Circuit Simulator) は,神経細胞における情報の受容,処理,伝達の基本であるイオン電流特性を記述した細胞モデルから,ネットワークとしての神経回路のモデル化,シミュレーション解析を支援するシミュレータです.電気生理実験に対応した網膜電位固定,電流注入シミュレーションをはじめ,システムとしての神経回路の挙動のイオン電流レベルの機能メカニズム解析に威力を発揮する仕様となっています.さらに,ダイナミックスを含めたリカレントニューラルネットワークのシミュレーションなど新しい学習アルゴリズムの検証,開発にも有効な環境を提供するものです.

2.6. 非線形パラメータ推定システム : NPE

NPE (Nonlinear Parameter Estimation Module) は,最適化法を利用して最適化問題の解を求めるためのシステムです.装備されている最適化法には,Simplex 法,BFGS 法,DFP 法,SSVM 法,共役勾配法があり,用途に応じて選択することができます.また,統計学,数値解析の知識は特に必要なく,最適化法の特徴を知るだけで容易に利用できるような仕様になっているため,実験データからモデルパラメータを推定したり,要求された条件を満たすフィルタ,制御系,電気回路の設計など,モデリングにおいて大きな力を発揮します.

2.7. データ変換モジュール : DCM

DCM (Data Conversion Module) は,様々なデータ解析ソフトウェアやシミュレータ間と SATELLITE 間とのデータ変換を行うシステムです.これを利用することにより,各システムの特徴を生かした処理を行うことができます.

2.8. 統計解析パッケージ : STATISTICS

STATISTICS は,様々な標本入力に対して統計処理を行い結果を算出するシステムです.提供されている機能は 2種類に大別され,主に一標本の入力に対して一つの統計量を出力する関数,および,複数の標本入力に対して検定を行い結果を出力する関数で構成されています.

3. 動作環境

3.1. 対応ハードウェアおよび OS

SATELLITE は,次に示すハードウェアと OS に対応しています.

  • PC/AT 互換機 (Windows98, Windows2000, Windows XP)

  • PC/AT 互換機 (FreeBSD 4.7 以降, Linux kernel 2.4 以降)

  • Apple Machintosh (MacOS X 10.2 以降)

  • その他 POSIX ベースの OS (動作は未検証)

3.2. ウィンドウ環境

SATELLITE を Windows 以外の環境で利用する場合,以下のシステムが必要となります.

  • X Window System Version 11 Release 6 以降

4. インストール

提供されている配布パッケージは,「Windows 用インストーラ実行形式」 と 「ソースコード一式」の 2種類です.それぞれ,http://satellite.sourceforge.jp/download.html からダウンロードできます.

4.1. Windows

Windows 用には,実行形式のインストーラパッケージ satellite-win32-4.2.3.exe が用意されています.

ダウンロード後,ダブルクリックすることによりセットアップウィザードが起動します.

セットアップウィザードの様子

図 1.2. セットアップウィザードの様子

セットアップウィザードのメニューに従い操作を進めていくことで,インストールが完了します.

4.2. MacOS X/Linux/FreeBSD

MacOS X/Linux/FreeBSD などの環境では,ソースコードからコンパイルを行う必要があります.

  1. ソースコード satellite-4.2.3.tar.gz をダウンロードします.

  2. ダウンロードしたソースコードを展開します.

    % tar zxvf satellite-4.2.3.tar.gz
  3. 展開されたディレクトリに移動し,configure スクリプトを実行します.

    % cd satellite-4.2.3
    % ./configure
  4. コンパイルします.

    % make
  5. 管理者権限を用いてインストールします.

    % sudo make install
Last updated: 2005/11/12